『大きな鳥にさらわれないよう』 | 静岡福祉大学

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『大きな鳥にさらわれないよう』

お知らせ

新刊は必ずチェックする作家さんが3人いる。村上春樹さん、小川洋子さん、そして川上弘美さんである。村上さんの新刊(単行本)は、発売されると必ずその日のうちに書店に走って手に入れる。小川さんと川上さんのものは、文庫化されるまで待ち、折を見て書店で購入する。

というようなことを、ごく身近なひとたちに口にしてから、小川さん・川上さんの新刊(単行本)を届けてくれる奇特なひとがちらほら現れはじめた。『大きな鳥にさらわれないよう』は、そんなふうにして私のところにやってきた、川上さんの長編小説である。

感想を書こう、と思ったものの、うちのめされてしまい、まだうまく位置づける(あるいは位置づく)ことができずにいるので、代わりになぜこの3人の作品に惹かれるのか、言語化できそうなことだけを、試みに記してみる(それが結果的に、この作品の感想、となるような気もしている)。

文体がすき、とか、構成が圧倒的、とか、出てくるもの(ひとや食べものや空気や景色など)が魅力的、とかいうことも、もちろんある。からだになじみ、ときおり引っかかることばの連なりは、とてもここちよい(経験的に、読後に「きもちよかった」と感じる作品はそう多くない)。

でもたぶん、いちばんは、自分の中の何かが組みかえられるような、世界の見え方が変わるような、そんな瞬間が得られるからではないかと思う。3人の作品を読むと、「確かに知っている」と感じることが多い。すとん、と落ちるように「わかる」のではなく、自分の中のある部分がふるえ、熱くなる。なつかしい、という感覚に近いかもしれない。そして、ふと現実の世界を見つめると、少しだけ、空気の鮮度が違うような気がする。凛とした、妙に冴えた空気がそこにはある。そのときの興奮状態は、ちょっと他では味わえない。

『大きな鳥にさらわれないよう』を読み終えたとき、そんななつかしさと、「生」のはてしなさとに、泣き出しそうになりながら、戻ってきた。少し経ってからまた、この物語を生きてみたいと思う。

 

『大きな鳥にさらわれないよう』添付画像

(子ども学科 山下紗織)

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