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カタカナの文字はなぜ倒れようとするのか

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 平仮名「の」「く」「き」は漢字「乃」「久」「幾」の草書体を基にして出来たもので、字形としては平仮名も漢字も安定しています。左右対称の字は最も安定しているので、好んで名前に付けられます。しかし、片仮名の「ノ」「ク」「キ」を見てください。同じ「乃」「久」「幾」の省画形ですが、右に、左に倒れかかっています。

片仮名の「メ」も傾いていますが、もともと、「メ」は「女」の終画を省略したもので、「×」に近い字形でした。「×」の方が安定しているのに、南北朝期にわざわざ「メ」のように傾いた字形にしたのです。なぜでしょうか。

片仮名の字形変化の歴史を見ると、「ア、ケ、チ、ラ」等の左払いの終画(「ノ」の形)は、古く縦の画(「|」の形)だった字形が、院政期から変化を始めたものです(小林芳規「表記法の変遷」)。更には、「レ、ル」の終画の斜め右上への跳ね上げも、古く横の画だった字形が、南北朝期から変化を始めたものです。(築島裕『国語の歴史』))

いずれも中世にかけて斜めの線が生じたわけですが、これは、もともと左払いの字形の片仮名「ノ、ク、タ、フ、ナ、テ(もと「天」の終画を省いた字体だった)」があったので、これに牽引されたものでしょうが、特に多く使用されたと考えられる「ノ」は、字形も単純なので、他の仮名への影響が絶大だったろうと思われます。

漢字の構成要素を平仮名は(崩れてはいるが)保持しているために全体の形が安定しているのに対して、片仮名は構成要素の多くを失っているために不安定なのですが、また、平仮名が(ごく初期に漢文の訓注に使われたのを除くと)漢字と離れて独立した文字として使われたのに対して、片仮名は漢字の脇に補助的に(寄りかかるようにして)使われた、不安定な存在だったと思われます。片仮名が訓点資料を離れて、仏教説話集や古文書などにも独立して用いられるようになった院政期以降に、「ア、ケ、チ、ラ」や、「レ、ル」の変化が起こっています。これは、漢字の脇に補助的に使われていた、非独立的という、失いつつある特徴を、斜めの線の強調という方法であえて字形に留めたのではないでしょうか。

「ノ」「ク」「キ」のような「斜め」の不安定な形が、むしろ積極的に片仮名の特徴を示すものとして相応しかったのだと思われます。
更に、現在、漢字「奴」の偏を省いた片仮名「ヌ」の字形が、不安定な「●」(「メ」の初画に横棒を加えた字形)に変わりつつあります。「ヌ」は「又」「ス」に近く安定しているのですが、小学校では平成3年の検定教科書からすっかり消えて「メ」に近い「●」となりました。

 片仮名は今もなお傾き、倒れようとしているのです。

かたかなのヌ

昭和57年検定の日本書籍『小学書き方2年』

(子ども学科 久島茂)