高齢者の自伝的記憶 | 静岡福祉大学

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高齢者の自伝的記憶

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「小学校時代に経験したこと」とか「2000年の夏どこへ旅行に行ったか」などの自分自身についての記憶がある。このような記憶は,自伝的記憶(autobiographical memory)とよばれています。

自伝的記憶についての記憶の量は膨大であり,すべて主観的なものであるとも言えます。実証性にかけることから,重要な研究テーマであると認識されていたにも関わらず,従来からの実験室での記憶実験においてはあまりとりあげられることがありませんでした。
ところが,単語手がかり法と呼ばれる実験方法が,米国の著名な心理学者であるルービン(日本にも何度か来ています)を中心として組織的に研究が行われ,高齢者についても多くの検討が重ねられてきています。この単語手がかり法は,英国のゴールトン卿によって初めて考案されました。

実験参加者は一連の単語のリスト(本,機械,悲しみ,喜び)を与えられます。それぞれの単語に対して個人的な記憶を自由に連想します。そして,単語リストの連想終了後,連想された出来事の日付の報告が求められました。その結果,連想される記憶は,児童期(39%),成人期(46%),最も最近(15%)の3期からでした。
ルービンらは,記憶頻度の分布について過去に行われた3つの実験に参加した実験参加者を用い,高齢者70名についての再分析を行いました。

 

自伝的記憶_図

 

図1の縦軸には,生起された記憶頻度の合計,横軸には,出来事を記憶していた年数(記憶保持期間)が示してあります。図1が示すように,最近約20年間(図の横軸の1-10から11-20)では,最近になるに連れて記憶頻度が高くなる現象がみられます。また,実験参加者の出来事が起こった時の記憶保持期間が41-50の期間(実験参加者の暦年齢では21歳~30歳)で頻度が高くなる現象(レミニッセンス・バンプ)がみられます。さらに彼らは図1ら示される現象以外にも,生後0歳から10歳くらいまでの乳幼児期のころの記憶について検討した結果,生後0歳から5歳まではほとんど記憶がないという幼児期健忘という現象の報告も行っています)。

なお,自伝的記憶のなかでも,一時的に記憶頻度が高くなる現象については新たな知見も報告されています。情動との関連からの検討が行われ,負(negative)の情動よりも,正(positive)な情動を伴った出来事の方が記憶頻度が高くなるとの報告がありあります。

以上,高齢者の自伝的記憶では,20歳代の正の情動の出来事の記憶頻度が高いことが明らかになっています。

(福祉心理学科 石原治)

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